「9・11以後」をテーマとする文章をどれくらい読んだだろうか。相当数になるに違いない。しかし、今になって思うのだが、どれも説得的ではなかった。いうところのソ連崩壊後に限っていえば、「9・11」以前と以後の世界にさしたる変化があったようにはどうしても思えない。

アメリカ合衆国が、自国の利益を損じると考える他国とそこで暮らす人々に対して武力侵攻し続けているのは、少なくとも第2次世界大戦後常態であるし、みずからの意に沿わない国家や民衆に対して暴力をもって制裁する事態も常態である。今またイラクに対して、大量破壊兵器を保持・生産しているとして核兵器使用も辞さない戦争をしかけようとしている。「対テロ戦争」は敵を求めて無限の戦争行為の継続を続けるしかない戦争だというのだが、これとて今までやってきたことと大差はなかろう。

9月26日付朝日新聞夕刊の報ずるところによると、ブッシュ大統領が民主党に対して「ワシントンの特殊利益に関心があって、米国民の安全保障に関心がない」と批判したことを受けて、民主党のダシュル院内総務が「戦争を政治化すべきではない。ベトナム戦争や第2次世界大戦を戦った民主党議員に向かって、そんなことを言うのか。恥知らずだ。大統領は謝罪すべきだ」と応答し、ロット共和党上院院内総務が「だれが敵なのか。大統領なのか、フセインなのか」と反撃したとのことであるが、この不愉快きわまりない遣り取りにアメリカ合衆国の政治家の戦争観が露呈しているではないか。あのベトナム戦争についても一切の反省を持っていないし、フセイン・イラク大統領を「敵」とすることはアメリカ合衆国2大政党の前提になっている。

歴史過程に「断絶/飛躍」を設定して記憶に留めようとするのは、わかりやすい方法ではあるが、「五五年体制」以後の世界の支配構造に関する限り、「9・11」については、「断絶/飛躍」をよりも、「連続/不変」をこそ認識すべきであろう。そうでないとアメリカ合衆国という思い上がった「不朽の正義」をかざす国家と、これに疑念をはさむことのない大多数の国民が、「世界平和」にとってどれほどの阻害要因であるかについての理解を曇らせる。「9・11」は「北」側が原因を作り、以前と以後それは「連続/不変」である。この当たり前のことをこそ強調すべきであるのに、「9・11」があたかも特別の事態であるかのように語ることは、アメリカ合衆国政治権力のプロパガンダに乗せられて、世界の現状分析のための冷静な観察にブラインドをかけてしまうことになりかねない。

もし、「9・11」が何かを大きく転換させたとすれば、「治安のグローバル化」であろう。世界支配構造に変化はなく、この支配構造の中で延命しようと自らの権力の安定化を志向するそれぞれの国家の権力にとって、各国主義的であった「治安」が、「テロ」を「世界の敵」とするという考え方で統一されてしまっている。支配権力を批判し、可能であればその権力を打倒したいとする勢力が存在することは当然のことであるが、これを許さない構造の構築が着々と進行している。「対テロ」統一戦線の形成である。世界支配の頂点にいるアメリカ合衆国は、みずからの支配構造の維持のためには、「対テロ」軍事行動は当然と考えているし、各国の支配権力もそれぞれに思惑があって、これに同調している。

有事法制の制定は、当初小泉政権にとって2002年の通常国会における最重要課題であった。しかしこれが、諸般の理由によって破産した結果、秋の臨時国会へと持ち越されたが、どうも再度延期されて来年の通常国会になりそうである。もちろん気を抜くことはではない。情勢次第によってはいつ強行突破をはかるかも知れない。アメリカ合衆国がイラクに対して侵略戦争を開始した際には、何を置いても「支援」に駆けつけたいと考えているに違いない。そのためには現状の法体系を完全に転換しておかねばならない。

ところで「対テロ」戦争は、軍事だけで貫徹することは不可能である。日常的な索敵活動と事前の予防措置を講じた上で、最終的な軍事行動に至るのである。日本でも「テロ資金供与防止法」なる名称の、その実、実力行使をも含む反体制運動全体への弾圧法を制定したが、来年の通常国会で「国連《越境組織犯罪防止条約》」締結に伴う国内法制定が目論まれている。一部新聞で「共謀罪」・「団体参加罪」新設と報じられた法律である。この法律の前提となっている条約を、政府は「国際組織犯罪防止条約」と訳しているが、もともとは「国際的」ではなく「越境的」であろう。この条約では組織犯罪集団に関わる組織む・共謀の規定と司法妨害の規定が国内法化の義務規定的条項になっている。政府案はこれに基づいて作成された。この法律案については批判しなければならない点が多々あるが、紙幅の関係から、「共謀罪」と「団体参加罪」に限定して若干触れておきたい。

これは、すべての「重大犯罪」(長期4年以上の刑期が定められている犯罪・なんと557もある)を共謀段階から処罰できるようにするものである。「組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて損段すること」それ自体が犯罪を構成する。「組織的」といったところで、「一又は二以上の者と合意する」こととされているので、実際には単独犯でない限り、わずか2人ででも「重大犯罪」を相談すれば、実行行為の有無と関係なく、「共謀罪」である。また、組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は犯罪を行う意図を知りながら、それに参加すれば「参加罪」となる。これもまた「対テロ」の意図をもって制定されようとしている。

このような要約ではこれがどれほど凶悪な法律であるかはっきりしないが、例えば、有事法制の制定を阻止しようと国会への突入を相談して、その中の1人が隠れてそれを録音し、警察に通報すれば、まだ何もしていないのに、相談に参加した者全員が一網打尽である。

大変な時代が到来しようとしている。「9・11」以後のアメリカ合衆国の人権状況よりさらにひどい監視・総密告社会を形成しようとしている。万一有事法制が制定されるようなことがあれば、反戦運動への大弾圧が予想される。あってはならないことであるが、救援連絡センターの活動を強化し、いつでも弾圧に十全に対処できるよう、いろいろな意味で救援連絡センターを強化しよう。これに早く着手しなければならない。

(運営委員 小田原紀雄)