はじめに  民主党政権は、次から次へとマニフェストの公約を逸脱し、すべてを保護にしようとしている。自動車税から始まり、高速道路無料化、子供手当て、公務員改革、国会改革、ついには、マニフェストの目玉であった八ツ場ダムの工事再開。それらは、すべて国民に約束したものである。何の検証もせずに新しい政策は放棄されてしまった。2010年の参議院選挙での敗北により、参議院での逆転現象を理由とした国会対策上仕方がないなどといっている場合ではない。たった一年で国民の熱を冷ましてしまった政権とは何なのか。そこにもっとメスを入れなければならない。  ところで、民主党政権の治安政策はどのように変わったのであろうか。マニフェストと政策INDEX2008に基づき、それを明らかにしてみよう。 民主党の治安政策  マニフェストでは、政策目的として、「災害や犯罪から国民を守る。」「日常生活に密着した『地域・刑事・生活安全』にかかる警察機能を拡充する。」が掲げられているが、それについての具体的提言はない。このような抽象的な文言では、何も明らかにはならない。  また、「自白の任意性をめぐる裁判の長期化を防止する。」「自白強要による冤罪を防止する。」といった政策目的に対しては、「ビデオ録画等により取り調べ過程を可視化する。」と書かれているのみである。  さらに、別のところでは、「テロの脅威の除去」という目的について、「テロとその温床を除去するため、NGOとも連携しつつ、経済的支援、統治機構の強化、人道復興支援活動等の実施を検討し、『貧困の根絶』と『国家の再建』に役割を果たす。」と述べている。  これに対して、このマニフェストの具体的内容が書かれている政策INDEX2008では、危機管理体制の整備、警察改革、治安対策、総合的な治安対策の推進が掲げられている。  危機管理体制の整備では、「危機管理庁(仮称)」の創設、非常事態時における首都機能のバックアップ体制についての検討、国内におけるテロの発生にそなえ、原子力施設へのテロ、ハイジャック、核・生物・化学兵器テロ、在外邦人や在日外国人の安全、テロ資金、サイバーテロなど、広範囲にわたる対策の整備をあげている。そこでは何が治安の中心なのかが明らかにされず、国民受けのする美辞麗句の羅列である。ここで検討すべきは、そのようなことを検討する必要性が国内に存在するかということである。これでは対米従属の姿勢を明らかにしたに過ぎない。  治安対策としては、日常生活に密着した「地域・刑事・生活安全」にかかる警察機能の拡充や地域社会の防犯活動の支援を取り上げる一方、警察活動への制約も提言していた。すなわち、警察権限の無制約な拡大による捜査権の乱用やプライバシー侵害などの弊害の招来、ひいては市民の警察捜査に対する不信や非協力の発生、防犯カメラ・Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)・DNA鑑定等、新たな捜査手法の利用における人権に配慮した運用ルールの制定・個人情報保護の観点からの法規制を提言していた。  しかし、これらは実現可能性があるのであろうか。民主手等が政策を指導することは出来ず、官僚に依存し、官僚の政策を鵜呑みにしているのが現状である。  これは、現在行われている新たな捜査手法を考える法制審議会特別部会での動きを見れば明らかであり、さらには、2009年の政権交代以降に行われた法制審議会を見ても、その人選は法務官僚によって進められ、その結果、党の方針とは反する内容の答申が生まれてしまった。時効廃止に向けての動きはそうであった。INDEXでは、「公訴時効のあり方については、法定刑に死刑が含まれる重罪事案のうち特に犯情悪質な事案について、検察官の請求によって裁判所が公訴時効の中断を認める制度を検討します」としていたのに、当時の千葉法務大臣はそれを無視し、自公政権時代にまとめた案が最終決定されることを容認してしまった。  法務部門では、 ①取り調べの可視化・証拠開示徹底による冤罪防止、 ②共謀罪を導入せずに国連組織犯罪防止条約を批准、 ③「終身刑」の検討を含む刑罰の見直しなどを掲げている。  ①については、最大の問題は密室での取り調べとし、「取り調べでの自白の強要による冤罪を防止するため、(1)裁判で自白の任意性について争いになった際に検証できるよう、取り調べの全過程を録音・録画することを捜査当局に義務付ける(2)刑事裁判での証拠開示の徹底を図るため、検察官手持ち証拠の一覧表の作成・開示を義務付ける等を内容とする刑事訴訟法改正を実現します」と公約した。これは刑事被疑者・被告人の人権にかかわることであり、早急にすべき課題であったにもかかわらず、それへ向けての具体的な動きすら存在しない。  ②では、事態はもっとも深刻である。民主党は、自らが共謀罪に反対し、法案成立を阻止してきたと自認した上で、われわれの主張も一部組み入れた提言を行っていた。すなわち、「共謀罪は、団体の活動として犯罪の遂行を共謀した者を処罰するものですが、犯罪の実行の着手、準備行為がなくても相談をしただけで犯罪となること、およそ国際性とは無縁な犯罪や重大犯罪とまではいえないようなものを含め六一九もの犯罪が対象となることなど、わが国の刑法体系を根底から覆しかねないものです。条約は『自国の国内法の基本原則に従って必要な措置をとる』ことを求めているにすぎず、また、条約が定める重大犯罪のほとんどについて、わが国では現行法ですでに予備罪、準備罪、幇助犯、共謀共同正犯などの形で共謀を犯罪とする措置がとられています。したがって、共謀罪を導入しなくても国連組織犯罪防止条約を批准することは可能です」と述べ、共謀罪なしでの条約批准を提言していたのである。ところが最近の動きは、逆の方向で進みつつあるように見受けられる。2008年にFATF(金融活動作業部会)の相互評価を受けた際の審査結果が当局にとってあまりにも悪く、その改善のためには、この組織犯罪条約を批准しなければならないという圧力が所轄官庁である金融庁や外務省から主張されるようになった。これは、共謀罪導入を推進してきた法務官僚にとってはかけがえにない味方を得たと同様である。  ③については、そのように検討はされずに、死刑廃止論者であった千葉法務大臣が死刑を執行したように、法務官僚からの死刑執行圧力は強まる一方である。この圧力に果して今の平岡大臣は耐えられるであろうか。公約を守る立場においては、死刑執行はしないという選択肢しかないことは自明の理であろう。 今後に向けて  対米従属をよりいっそう強め、消費税の大幅増税を画策する野田政権にとって、自らの政権に反対する勢力はすべて悪と写るであろう。これからは、悪を抑制するための方策を考え出すに違いない。そこでは、もはや立法事実すら必要ではない。それは作り出せばよいことである。  今年の早急な課題は、共謀罪を阻止し、秘密保全法制の成立を許さないことである。そのためには、多くの戦線が一致協力し、共同戦線を作らなければならない。