1 裁判員制度を巡る近時の状況
この夏、裁判員制度を巡る状況が、大きく変化した。
まず、7月27日、読売新聞は、政府が、裁判員制度が、第二の「後期高齢者医療制度」問題化し、政府批判が強化することを恐れて、法務省に広報活動の強化を指示したと報じた。その後、8月7日には、共産党と社民党が、裁判員制度の実施延期を求める見解をほぼ同時に発表し、同月15日には、民主党小沢代表が、民主党が政権を獲得すれば裁判員制度のあり方そのものを見直す決意を発言したという。
そもそも、裁判員法は、04年の国会において、ろくに中味を議論されることもなく、全会一致で成立した法なのであるが、このように、まさに情勢は一変した。今秋の臨時国会では、裁判員制度の是非、延期を含めた議論がなされることは間違いないであろう。
こうした情況は、最高裁、法務省、日弁連執行部にとっては、M7級の激震だったといえよう。日弁連執行部は、一連の動きに対抗し、8月20日、「裁判員制度が予定通り強く実施されるよう強く求める」との緊急声明を発表、各政党に対し、翻意と動揺阻止の働きかけを開始した。また、最高検の樋渡検事総長も、日本記者クラブで会見し、「実施して、やりながら改善していくのがいい」と、延期や再検討を求める共産、社民両党などの主張に反論している。8月 28日には、衆院法務委有志なるものが「国民は必ずしも制度を歓迎していないが、確実に実施すためには負担を極力減らす配慮が必要だ。日当も3万円に」と保岡法相に提言書を渡したようである。敵も必死だ。
2 状況変化の要因
このように、裁判員法を巡る情勢が、その法案成立後5年を経て、一変しつつあることには、いくつかの要因を指摘しうる。
第一に、実施まであとわずかというにも関わらず、圧倒的多数の市民がこの制度に拒否反応を示しているということである。よく指摘されるように、各種世論調査によれば、約8割の市民は、裁判員制度への参加に拒絶的意向である。このことは、裁判員制度なるものが、いかに市民の要求とは別のところで決められた出鱈目な制度であるかをよく物語る。市民の多くは、裁判員制度が、一部の論者らが言うところの「司法の民主化」などとは何の関係もなく、その実態は、「現代の赤紙」ともいうべき新たな義務の強制であることをよく感じ取っているのだ。
第二に、裁判員制度に対しては、法曹界の各層に強い反対の声が存在している。実を言うと、裁判所や検察庁の内部にも制度を疑問視する声は決して少なくない。弁護士会においては、新潟、栃木、大分の三会において、制度延期ないし見直しの決議がなされ、反対派の反撃が開始されつつある。そして、何より刑事弁護を真剣にやる弁護士であればあるほど、この制度への批判、疑問を強く持っているのだ。
そして、いずれもえん罪の被害者である元死刑囚の免田栄さんや氷見事件の柳原浩さんらもこの制度には明確に反対している。
3 裁判員制度は救援連絡センターの原則を破壊する
すでに本誌でも多数の方が指摘してこられたとおり、裁判員制度の導入とそのための公判前整理手続等を中心とする新刑事訴訟法が貫徹されれば、これまで救援センターが原則的として反弾圧闘争や公判闘争のあり方はほぼ破壊されてしまうだろう。
公判前整理手続における「争点整理」は、救援連絡センターの大原則である被疑者、被告人による黙秘権の行使を事実上困難にさせる機能を有する。そして、その手続は、非公開でなされるから、支援者は、裁判の肝心な部分のほとんどを傍聴することも出来ない。整理手続後の主張立証制限は、被告人弁護人の防御活動を確実に困難ならしめ、裁判長の訴訟指揮権の強化は、被告弁護側の訴訟活動を萎縮させ、活発な訴訟行為を封じる。開示された証拠を裁判批判のためのパンフ等に載せることも違法として許されない。そして、裁判員裁判では、原則、主観的併合は想定されていないので、これまで行ってきた統一公判の要求も論外になる。また、たった3日の連続開廷では、被告弁護側に十分な準備は保証されず、無罪の主張も、自己の行為の総括を深めることも困難となる・・・
裁判員裁判とは、実におぞましい制度だ。
4 「裁判員制度はいらない!大運動」の活動
我々「裁判員制度はいらない!大運動」は、昨年4月、裁判員制度の廃止を目指す市民、弁護士の団体として発足した。以後、今日に至るまで、各地で学習会、集会、街頭活動を積み重ね、さる6月13日には、日比谷公会堂において約1500人を結集する全国集会を実現させた。そして、8月11日には、共産、社民の延期論を受けて、改めて裁判員制度の廃止を訴える声明を発表している。
我々は、これまで、毎月の第2土曜日には、東京有楽町のマリオン前にてビラ撒き等の街頭宣伝を地道に行ってきているが、そこでの市民の反応はとてもよい。各種世論調査にいう8割の反対の声は、こうした我々のいわば現場感覚とも完全に合致するものである。街頭にて、我々が道行く市民と話をすれば、裁判員制度賛成などという人はほとんどいない。
我々は、こうした圧倒的多数の市民の声を自らのエネルギーとして、今後もその運動を強化していく。
5 秋の運動が決定的重要
我々は、小泉構造改革の時代に一気に成立したこの裁判員制度なるものは、郵政民営化、後期高齢者医療問題などと同様に、政府の新自由主義政策の産物であると考えている。また、裁判員制度は、市民に新たな義務を課す「現代の赤紙」として、国民にファッショ的意識を課すものであり、ひいては改憲攻撃の一環であると捉えている。すなわち、裁判員制度との闘いは、新自由主義、改憲攻撃との闘いの重要な一環をなすものだ。
そして、今年の秋の闘争が極めて重要である。
前述のとおり、各政党の態度が流動化し、今年秋の臨時国会では、裁判員制度が間違いなく、議論される。また、今年の11月頃には、来年の裁判員候補者となることを伝える通知が約30万人ともいわれる市民に送付されることになっている。このことにより、市民の制度批判の声はさらに強まっていくだろう。
こうした時期をとらえ、我々「大運動」は、11月末頃に、全国の多くの仲間たちとともに、裁判員制度実施阻止のための一斉行動を予定している。既にいくつかの地域では具体的な行動予定が定まりつつある。この11月一斉行動に多くの結集を実現し、その声を国会に直接ぶつけていくことが必要である。11月一斉行動の結果によっては、裁判員制度は、現実的にも阻止することが可能な情勢だと思う。
裁判員制度解体の秋がきた。多くの読者のご参加、ご協力、ご支援を求めます。
(「裁判員制度はいらない!大運動」事務局 川村理)